火葬第一号をめぐる謎

いつぽう、
仏教式の火葬は、
文武天皇の四年(七○○)に行なわれた道昭が第一号だったと『続日本紀』は述べている。

道昭という人物は一般にはあまり知られていないが、
唐に留学して『西遊記』の三蔵法師のモデルとなった玄葵に師事し、
多くの経典を日本に招来した法相宗の僧で、
仏教史の上ではとても重要な位置を占めている。

本場インドで研究をしてきた玄奨の教えを受けた道昭であるから、
「仏教徒は火葬にするのが本場のやり方さ」と自らの葬儀について弟子たちに指示していたことは充分ありえる。

だが、
『続日本紀』のこの記述には、
すんなり受け入れられない面がある。

というのは、
仏教が公に日本に伝えられてすでに一世紀半が経っており、
「最初」というには時期が遅すぎるように思えるからだ。

実際、
『万葉集」には火葬を詠んだ歌がいくつか収録されている。

それはたとえば、
次のようなものである。

土形娘子を泊瀬の山に火葬る時に、
柿本朝臣人麻呂が作る歌一首こもりくの泊瀬の山の山の際にいさよふ雲は妹にかもあらまた、
「溺れ死にし出雲娘子を吉野に火葬る時」「佐保山に火葬す」といった表現も見られる。

これらの歌が道昭の火葬以前に作られたものかは判然としないが、
柿本人麻呂当時に火葬がある程度一般化していた様子は窺える。

一説によると、
『日本書紀』斉明天皇四年(六五八)の条に出る「今城なる小丘が上に雲だにも著くし立たば何か歎かむ」という歌も火葬を詠んだものだという。

すると問題は、
『続日本紀』がなぜ、
道昭を最初の火葬者と書いたかということになる。

四国霊場の開創が空海に仮託されたように、
日本における火葬の創始者として道昭が崇拝されたというのならわかるのだが、
そうした信仰があった気配はない。

それどころか、
道昭が属した法相宗は、
現在に至るまで在家葬儀とかかわりをもたずにいる希有な宗派なのである。

そこで注目されるのが、
道昭の火葬の四年後の記事である。

すなわち、
持統天皇が大宝二年(七○三に崩御され、
その翌年に飛鳥岡で火葬されたというものである。

これが天皇における最初の火葬例となり、
次々代の元明天皇、
その次の代の元正天皇も火葬で弔われている。

『続日本紀」は、
道昭の火葬と天皇の火葬を直接結びつけることをしてはいないが、
道昭の記述を前に置くことによって、
持統天皇の火葬が仏教の正統な教えに基づく行為であることを印象づける意図があったのかもしれない。

 

仏式葬儀法の起源はやっぱりお釈迦さま

ここで仏教の葬儀法の起源を振り返っておきたい。

仏式の葬送が最初に行なわれたのは、
言うまでもなく開祖である釈迦(前五世紀ごろ)のものであった。

釈迦の臨終から葬儀に至る過程は『浬梁経』というお経に記録されている。

『浬梁経』には原始仏教に近いものから大乗仏教バージョンまでいくつかのバリエーションがあるのだが、
いずれも釈迦の最後の教えを収録したものとして重視されてきた。

そして、
ここに記録された葬儀が、
仏教の理想的葬儀法とされてきたのである。

たとえば、
遺体を北枕にするのは、
釈迦の臨終の様子に倣うものだとされる。

『浬梁経』の中でもっとも古いバージョンでは、
釈迦の葬儀を次のように述べている。

「アーナンダよ・世界を支配する帝王(転輪聖王)の遺体を処理するようなしかたで、
修行完成者の遺体も処理すべきである。

(略)アーナンダよ・世界を支配する帝王の遺体を、
新しい布で包む。

新しい布で包んでから、
次に打ってほどされた綿で包む。

打ってほどされた綿で包んでから、
次に新しい布で包む。

このようなしかたで、
世界を支配する帝王の遺体を五百重に包んで、
それから鉄の油槽の中に入れ、
他の一つの鉄槽で覆い、
あらゆる香料を含む薪の堆積をつくって、
世界を支配する帝王の遺体を火葬に付する」(中村元訳「ブッダ最後の旅』)しかし、
葬儀の実際に当たったのは、
出家者(僧侶)ではなく、
在家の信者たちであった。

これは釈迦が「アーナンダよ・お前たち(出家者のこと、
引用者注)は修行完成者の遺骨の供養(崇拝)にかかずらうな」(前掲書)と遺言したためだ。

葬送にかかわる時間があれば、
修行に専念せよというわけである。

いわゆる「葬式仏教」批判は、
こうした「歴史的事実」に基づいて行なわれている。

現代日本のお寺が葬送儀礼に深く関与しているのは、
釈迦の教えにそむくことだ、
という批判だ。

この主張は一面では正しい。

原始仏教のみが正統な仏教だとするならば、
僧は葬祭にかかわるべきではないだろう。

しかし、
後で見るように、
仏教は葬祭にかかわることによって、
日本人の宗教たりえたといえる。

これは日本人の信仰が選び取った一つの結論であり、
安易に否定することは、
日本人の信仰も否定することになるといえよう。

初期の仏教教団においても、
葬儀の否定は原理主義的なもので、
現実には簡単なものが行なわれていたものと思われる。

実際、
在家の主催にしても釈迦の葬儀は行なわれたわけであるし、
教団の決まりが説かれている「律蔵」には、
出家者が死亡した時には供養をすべきことが述べられている。

では、
実際のインド仏教の葬儀はどうだったかというと、
七世紀の後半にインドへ遊学した義浄が『南海寄帰内法伝』に記録を残している。

それによると、
修行仲間が遺体を担いで焼き場に行き、
皆で火葬を見守る。

そして、
読詞が得意な者が『無常経』を読調する、
という簡単なものであった。

『無常経』はごく短いお経なのであるが、
これについて義浄は「(この経は小さいもので)半紙か一紙(程度)、
(中国のように読調が長時間に及び、
参列者を)疲久させるようなことはない」(宮林昭彦・加藤栄司訳)とコメントしている。

ちなみにこの『無常経』には「臨終方訣」という付録があり、
出家者の臨終から葬送に至るまでの作法が述べられている。

その一部を抄出してみると、
次のようになる。

「病人の臨終が迫ったら、
休浴をさせて清潔な衣を着せてやる。

・・・菩薩戒を授けるが、
病人が復唱できない場合は、
他の者が代理で受戒してもよい。

授戒がすんだならば、
病人を西向きの北枕に寝かす。

……看病人は念仏を唱える。

……命終したならば:…・読経のうまい僧に『無常経』を読ませる。

読経がすんだならば、
花びらを撒き、
焼香をする。

また、
呪文(真言)を唱えて、
加持した水を遺体に撒く。

さらに加持をした黄土を撒く。

それから土葬をするか火葬を行なう」簡素ではあるが、
授戒・読経・焼香など、
中世以降に完成された日本の仏式葬儀と、
基本的な構成要素は同じだ。

 

 

蓮の葉いまどきの冠婚葬祭TOPへ

8 Comments

  1. Hey there just wanted to give you a quick heads up.
    The text in your content seem to be running off the screen in Opera.
    I’m not sure if this is a format issue or something to do with browser compatibility
    but I figured I’d post to let you know. The design look great though!
    Hope you get the problem solved soon. Many thanks

  2. Greetings from Los angeles! I’m bored to tears at
    work so I decided to check out your website on my iphone during
    lunch break. I really like the knowledge you provide
    here and can’t wait to take a look when I get home. I’m surprised at how
    quick your blog loaded on my cell phone ..
    I’m not even using WIFI, just 3G .. Anyways, awesome site!

  3. I think this is among the most significant info
    for me. And i am glad reading your article. But wanna remark on few general things, The website style is great,
    the articles is really nice : D. Good job, cheers

  4. You actually make it seem so easy along with your presentation however
    I in finding this matter to be actually one thing which I feel
    I might by no means understand. It sort of feels too complicated and extremely extensive for me.
    I am having a look ahead on your subsequent submit, I’ll try to get the dangle
    of it!

  5. I was curious if you ever considered changing the page layout of your blog?
    Its very well written; I love what youve got to say. But maybe you could a little more
    in the way of content so people could connect with it better.
    Youve got an awful lot of text for only having one or 2 pictures.
    Maybe you could space it out better?

  6. After I initially left a comment I seem to have clicked the inform me when new comments are added checkbox and
    now each time a review is added I get 4 emails with the same statement.

    There has to be a way you can remove me from that service?

    Thanks!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。